マダガスカル手話において, 単他動詞節はA, P, Vに関して可能な6つの全ての構成要素順を見せる. 他方, 複他動詞節において, Tは自由に様々な位置に置かれることができるが, Rはtopicとして節頭に置かれたり, あるいはantitopicとして節末に置かれたとき以外は, Vあるいは能格倚語的AERGを伴ったV=AERGのかたまりの直後に置かれる. Rは半ば語彙化されたVTのかたまりの直後に置かれることもある.
単他動詞節の構成要素順が自由なのは, 実は「代名詞>人間>動物>自動無生物>無生物」という序列においてAがPよりも高いか, あるいは同じ序列にあっても意味的に有情性に差があると認められる場合のみで, AとPが序列上同等である場合(P(=A)), 採りうる構成要素順は, AVP, PAV(Pはtopic), VPA(Aはantitopic)だけである.
このように, 序列上Aと同等であるP(=A)は, 節内の分布が制限され, この状況は複他動詞節のRに類似している. このことから, P(=A)はRと統語論的に同等の振る舞いを示し, 他方Aよりも低いP(<A)は単他動詞説のT同様, 節内で自由な分布を見せる. このことから, マダガスカル手話は, P, T, Rに関して, 統語論的に部分的なPのスプリットアラインメントを見せることを提案する. このことは, Rが通常「人間」(あるいは「代名詞」)であり, 序列上Aと同等(あるいはそれ以上)であることにも理由の1つがあると思われる.