ノルウェー手話とマダガスカル手話の予備的比較研究
箕浦信勝
2.1. 章に見たように、ノルウェー手話(NTS) とマダガスカル手話(TTM)
の間には、スワデシュ・リストを手話諸言語の比較用に改編したウッドワード・リスト100
語のうち、手指表現が同一なペアが18 個見つかった。2.4. 章からは、違いもあるが類似もある27
のペアが見つかった。後者に関しては、6
つのペアに関して、同系性を排除した。となると、同形18 ペアと、類似21
ペアに同系性の可能性が残る。他にウッドワード・リストの4語は、片方の手話の辞書あるいは両方の辞書に掲載が無く、マダガスカル手話に関しては、我がフィールドノートにも記録が無かったのでデータが欠けていることになる。そうなると、同系性の可能性があるのは、全96 ペアの内、39 ペア(40.6%)である。しかし、その39
ペアの同形性や類似に関して、他の理由を完全に排除することはできない。同形性や類似は、オノマトペ性や図像性に起因するかも知れない。また同形性や類似は、国際手話やアメリカ手話からの借用に起因するかもしれない。これら同系に見えるペアは、皆、そのような疑問に晒されることになり、我々手話言語学者は、音声言語の比較言語学で使われる、音法則のように信頼できる道具が無い以上、NTS とTTM
の間の同形・類似手話単語に関して、確定的な同系性を主張することはできない。
他に問うことができる疑問は、「何故いくつかのペアは2.1.
章に見たように全く同形で、他のいくつかのペアは、2.4.
章にみたように似ているけれど違うのか。その背後には、オノマトペや図像性といった『力』が働いているのか?あるいは、国際手話やアメリカ手話などからの『圧力』は無いのか?2.4 章に挙げられている、似ているけれども違うペアに関しては、NTS
との最初の接触から半世紀強で、なぜこんなにも隔たってしまったのか?」これらの疑問は、本稿のそして筆者の能力の限界を越えたものであり、答えることはできない。